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【映画レビュー】『サブスタンス』 デミ・ムーアの挑戦!?ポップな華やかさに潜むおぞましさに注目…

  • 執筆者の写真: 黒野でみを
    黒野でみを
  • 4月30日
  • 読了時間: 7分
(C)2024 UNIVERSAL STUDIOS
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今回紹介する映画は、またもハリウッド・スターが体を張ってチャレンジした物語。あのデミ・ムーアが異色のキャラクターを演じ、大きな賞レースでも旋風を巻き起こした『サブスタンス』です。


近年のポップカルチャーを想起させる明るいデザイン・イメージの中で、人の深層心理にあるドロドロした欲望の醜さを露呈させるようなおぞましい光景を描いた本作。


2024年・第77回カンヌ国際映画祭コンペティション部門で脚本賞を受賞。第75回アカデミー賞では作品賞のほか計5部門にノミネートされ、メイクアップ&ヘアスタイリング賞を受賞と、このジャンルとしては異例の注目を呼びました。


【まさに「体を張った」存在感!パブリックイメージを粉々に破壊したデミ・ムーア

デミ・ムーアといえばおそらく多くの人が想像するのが、1990年の『ゴースト/ニューヨークの幻でしょう。あの恋人を想う一途な女性・サムの魅力に惹きつけられた人は少なくありません。


ある意味その「清らかな」女性は、彼女のパブリックイメージとしては最も強い部分ではないでしょうか。しかしそのイメージを、本作では完全に払拭。自身の老化を憂い、卑しくも加齢に抗い禁断の若返りに挑む。その結果、自身が得たものは…


とにかくビジュアル的なイメージからすべてをさらけ出し、欲望にまみれた醜い人間の姿を演じ切ったムーアですが、物語が進行するにつれて無残な姿に。そしてラストは「えっ…?これ本当にOK出したの?」と疑ってしまうほどの酷い成りと化してしまいます。


本メディアでも近日『ロングレッグス』のニコラス・ケイジ、『異端者の家』のヒュー・グラントと、ビッグ・スターが新作で大きな驚きを見せており、本作もそれに匹敵する大きな衝撃。しかしこの大きな起点は俳優としての幅の広さを感じさせるもの。長きに渡って築かれたイメージをぶち壊し、まだ「次は何をやるんだろう?」と期待させるものでもあり、今後の活躍がある意味楽しみな感じでもあります。


【概要】

(C)2024 UNIVERSAL STUDIOS
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若さに嫉妬し、美しさに執着した元人気女優の姿をおぞましい世界観で描いた異色のホラー。


『REVENGE リベンジ』などを手がけてきたフランスのコラリー・ファルジャ監督が作品を手掛けました。


主演を努めたデミ・ムーアは、キャリア初となるゴールデングローブ賞の主演女優賞(ミュージカル/コメディ部門)にノミネート&受賞を果たし、アカデミー賞でも主演女優賞にノミネートされ注目を浴びました。共演には『哀れなるものたち』『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』などのマーガレット・クアリー。


2024年製作/142分/R15+/イギリス・フランス合作

原題または英題:The Substance

配給:ギャガ

劇場公開日:2025年5月16日


【監督・脚本】

コラリー・ファルジャ


【出演】

デミ・ムーア、マーガレット・クアリー、デニス・クエイドほか


【あらすじ】


(C)2024 UNIVERSAL STUDIOS
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若き日にはその美貌で多くの人気を博したエリザベス。しかし50歳の誕生日を迎え、表向きは祝福されながらも一方で後ろ指をさされ、容姿の衰えによって仕事が減っていくことを気に病みます。


ところがある日、ひょんなきっかけで若さと美しさと完璧な自分が得られるという、「サブスタンス」という薬があることを知り、いても立ってもいられなくなった彼女はこれに手を出すことを決心します。


薬品を注射すると、エリザベスから「スー」という若い自分が現れます。その若さと美貌に加え、エリザベスが持つ経験を知識として持っており、たちまちエリザベスに成り代わってスターとなっていきます。


一方、「サブスタンス」の取扱説明には、エリザベスとスーは「1週間ごとに入れ替わらなければならない」という絶対的なルールがありました。しかしスーは自身のエゴに従い、次第にルールを破りはじめ……。


【『サブスタンス』の感想・評価】


1.人間の醜い欲望の奥に見えるメッセージ

(C)2024 UNIVERSAL STUDIOS
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「美」への追求に対する醜さを描いた作品といえば、2020年の韓国アニメ映画『整形水』を思い出す方もおられるのではないでしょうか。「美しさ」を貪欲に追及する一人の女性が、欲望におぼれた結果恐怖の運命にたどり着くさまを描いたこの作品は、アニメらしいキャラクターの可愛さ、美しさの中で、欲望に溺れ残酷に人をあやめることも厭わない一人の哀れな女性をおぞましく描いた作品でありました。


これに対し本作は、どこか対称性をおぼえるものといえます。本作のコンセプトとしてユニークなのは、物語の枠組みをあくまで一人の女性に限定して描いているところにあります。


この視点は人間固有の欲望を、外部の人間がいきなり介入してくるような外的要因に影響されない、ある意味純粋なものとして描くことを狙っているようにも感じられます。


一方でその欲望の奥に見えるものこそが、本作のメインテーマともいえるものであります。コラリー・ファルジャ監督はインタビューで、本作について「根本的に支配の暴力性、つまり私たちがいかに『繊細であるように言われているか』を描いている」と語っており、一方でもともと「ハリウッドの本質を描くこと」に興味を持っていたことを明かしています。


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作品のモチーフとも考えられるハリウッド。物語とのつながりは非常に意味深でもあります。果たして人間の欲望の根源がどこにあるのか?もともとエリザベスは彼女自身の真意としてその欲望にしたがっておらず、「仕事の激減」などでその思いが現れるわけで、思わぬところに真相を感じられるわけです。


そしてそんな「支配」に踊らされ、自身に大きな混乱を抱えるエリザベスは、「サブスタンス」でとんでもない運命へと導かれてしまい、最後には見るも無残な姿に。ここで注目すべきは彼女が導かれた「とんでもない運命」、「無残な姿」となった際に見せた彼女の表情


そこには彼女が単に自発的に抱える「欲望」に溺れたのではなく、何か他の要因でそうさせられた、と解釈もでき、メッセージの深さをおぼえるストーリーとなっています。


そもそも、「サブスタンス」はなんの目的で作られ、エリザベスのような女性に提供されるようになったのか?ある意味生物学的には驚くような発見、技術でありながら、物語の中ではまるでヤミの世界で取引されるような代物として描かれているのも興味深いところ。こういったポイントに、作品の真意が隠されているようにも感じられます。


2.「女性が描いたボディ・ホラー」敢えての設定、イメージに惹きつけられる魅力

(C)2024 UNIVERSAL STUDIOS
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この作品は「ボディ・ホラー」と銘打たれながらも、そのイメージに反し全般的に原色を中心としたかなりポップなイメージで描かれているところが目を引きます。


老いに苦しむエリザベスをダークな色彩でイメージし、新たに誕生した彼女の分身・スーを、眩しさすら感じられるピンクで描き展開していく物語。一方で蛍光色の「サブスタンス」、迷走する中で派手な黄色のコートをまとうエリザベスと、不意に現れるグロテスクな表現とは対照的にグラフィカルとも見える明るいイメージに、つい目を奪われてしまいます。


またエリザベスが手にする「サブスタンス」の取扱説明書などの構成や、ほぼ画面中心に置かれる二人の主人公の顔、二人が入れ替わるシャワールームの空間性など、敢えてリアリティーなど無視したようにも見える空気感に、どこかフワフワした感覚をおぼえます。

(C)2024 UNIVERSAL STUDIOS
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この印象に対し、ラストのおぞましい光景はかなり対称的であり、新鮮なコントラスト感をおぼえるものであります。このイメージは斬新と感じられるものながら、同時に「女性監督ならでは」という視点が見えるところでもあるでしょう。


一方でもともとデヴィッド・クローネンバーグやジョン・カーペンターといったクリエイターからも影響を受けているといわれるファルジャ監督ですが、クライマックスからラストへの展開は、どこかその片鱗が見られるところであります。


また本作はエリザベスをはじめとして、登場人物にそれほど深い人物背景が見えないのも興味深いところ。それは先にも記したとおり「サブスタンス」の提供者もしかり。ここにも敢えてこのような設定とした意図が見えるところであります。


映画、物語の描き方としても様々なポイントで印象を覆され、斬新さをおぼえるものであり、ボディ・ホラーという印象を抱いて作品にたどり着いた人には、冒頭からあれ?とよい意味で肩透かしを食らわされながらも、怒涛のエンディングまで強烈な衝撃へと引っ張られていくことでしょう。



参照記事:

『VOGUE』2024年9月18日

『この映画は基本的に『支配の暴力』について描いています』:脚本・監督のコラリー・ファルジェが作品の内容を語る

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