
ジョージ・A・ロメロの『Night of the living dead』発表からもう半世紀が過ぎようとしている今日、「ゾンビ」の世界観もかなり広がり、その議論を追うのもなかなかに難しいところであり、興味を持っても「どこから手を付けていけばいいのか」と、ゾンビ初心者(?)は迷うところ。
いわゆる「ゾンビ」が登場する作品も星の数ほどに膨れ上がり、何から見れば…という感じ。そこで今回は、そんなゾンビ初心者に「まずはコレ!」という「ゾンビ映画」六作を紹介します。
目次
1)「ゾンビ」映画の基本!現代の死霊復活物語はジョージ・A・ロメロから始まった!?
やはり現代「ゾンビ」映画を語る上で、ジョージ・A・ロメロの作品は外せないところであります。
そして数々発表されているものの中でも、特に「三部作」と呼ばれる『Night of the Living dead』『Dawn of the dead』『Day of the dead』は必見ともいえるでしょう。
タイトルから「おや?」と思われる方がいるかもしれません。
「Night」「Dawn」「Day」と昼夜の表現で構成されているこのタイトル群。つまり「ゾンビの夜」「ゾンビの夜明け」「ゾンビの昼」といったところでしょうか。つまりは「ゾンビ」という存在がいかに社会に蔓延していくかというテーマを、タイトルの遍歴で表している、といわれているわけです。
そしてこの三作の中でも『Night of the Living dead』、『Dawn of the dead』は作品としてのインパクト、「この時代において前例のない作品」的な印象も強く、賛否はありながらも後続の作品に大きな影響を与えた作品であることは間違いない物語であるといえるでしょう。
『Day of the Dead』は、二作を経てある意味この「ゾンビ」というテーマに対しての、一つの完成を見せた作品であるようにも思われます。映像のグロテスク描写なども向上し、物語としても前二作とはまた異なる論点を盛り込まれている傾向も見えてきますが、ある意味「ゾンビありき」で作られた作品という印象もあり、残念ながら過小評価され若干地味な作品と見られている感もあります。
『Night of the Living dead』が1990年にトム・サビーニにより、『Dawn of the dead』が2004年にザック・スナイダーによってそれぞれリメイクされたというところからも、この『Day of the dead』の見え方は少し異なる印象をおぼえるところであります。
一つ注意すべき点として、『Dawn of the dead』は公開時の事情により、「米国公開版」「ダリオ・アルジェント版」「日本公開版」という複数のバージョンが存在しています。細かい説明は割愛しますが、諸々の公開や配給側の意向により音楽が変更されたり、オリジナルにはないイントロ映像が付け加えられていたりと、 顕著な相違点が見られます。
またロメロは、三部作以降にも『Land of the dead』『Diary of the dead』『Survival of the dead』と「ゾンビ映画」を作り続けていますが、やはりベースとなるのは三部作と思える印象です。
ちなみに『Land of the dead』は、ロメロらしい社会メッセージ的なテーマ性をおぼえる一方で、「首が切れたゾンビ」「人間の首を引きちぎり、脊髄まで引きずり出すゾンビ群」などといった若干誇張し過ぎな表現が鼻につくところもあり、製作において外部からの口出しに悩んだ様子が若干感じられるところでもあります。
1.『Night of the living dead (邦題:ナイト・オブ・ザ・リビング・デッド)』

監督:ジョージ・A・ロメロ
出演:デュアン・ジョーンズ、マリリン・イーストマン、ジョージ・コサナ、ジュディス・オディア、カール・ハードマン、キース・ウェイン、ジュディス・リドリー、ラッセル・ストライナー、チャールズ・クレイグ、ビル・カーディルほか
1968年製作/96分/G/アメリカ
2.『Dawn of the dead(邦題:ゾンビ)』

監督:ジョージ・A・ロメロ
出演:デビッド・エムゲ、ケン・フォリー、スコット・H・ライニガー、ゲイラン・ロス、トム・サビーニ、デビッド・クロフォード、デビッド・アーリー、リチャード・フランス、ダニエル・ディートリヒ、フレッド・ベイカー、ジェームズ・A・バフィコ、ロッド・スタウファー、ジョセフ・ピラトーほか
1978年製作/115分/R15+/アメリカ・イタリア合作
『Day of the dead(邦題:死霊のえじき)』

監督:ジョージ・A・ロメロ
出演:ロリ・カーディル、テリー・アレクサンダー、ジョセフ・ピラトー、ジャーラス・コンロイ、アントン・ディレオ、リチャード・リバティー、ハワード・シャーマン、G・ハワード・クラー、ラルフ・マレロ、ジョン・アンプラスほか
1985年製作/102分/アメリカ
2)「残酷さ」「痛さ」ーグロテスクさならフルチにおまかせ!
ロメロが発表した三部作の二作目『Dawn of the dead』発表の一年後に発表された、邦題『サンゲリア』という作品。実はこの作品、原題がなんと『ZOMBI 2』。『Dawn of the dead』とは縁もゆかりもないはずのこの作品でありますが、無理やりに「続編」としたこの恐ろしさ…別の意味で恐ろしい作品でもあります(笑)
物語としては、原因不明の疫病で死人が生き返り人々を襲うという一見ストレートなものでありますが、よくよく見ていると「墓に葬られて何年も過ぎた遺体がよみがえる」「前を向いていないのに人がいるところを正確に察知し襲う」「行動はトロくさいのに人間を捕まえると異常に強い力を発揮し押さえつけてしまう」など、ツッコミどころは満載。
フルチのゾンビ映画はこの作品以降、どこか「ゾンビ」というイメージの見えない性質的なものに引っ張られ、どうしても出てきてしまう矛盾を隠し切れないままに作り上げてしまったという印象をおぼえるものがたくさんあります。
しかし一方で、この作品における残虐表現は驚くものがあります。とにかく噴き出す血しぶきなどは、ロメロの「ゾンビ」シリーズにはないダイナミックな表現。またゾンビに捕まえられた人が、木片のトゲを目に突き刺されてしまうシーンなど、とにかくショッキングなシーンの連続は、今見てもトラウマになりそう。
その意味ではロメロの三部作とは違う方向で後続の「ゾンビ」映画に影響を与えた作品であるという印象の物語。『Dawn of the dead』がどちらかというと社会風刺的な作品であったのに対し、本作はあくまでシリアスなホラーをイメージして作られたものであることは、ラストのシーンからも感じられるところであります。
『ZOMBI 2(邦題:サンゲリア)』

監督:ルチオ・フルチ
出演:イアン・マカロック、ティサ・ファロー、リチャード・ジョンソン、オルガ・カルラトスほか
1979年製作/91分/アメリカ・イタリア合作
3)ホラーでなくても「ゾンビ」物語!?一石を投じた「コメディー」
先日のコラムでも書きましたが、ある意味ロメロは「ゾンビ」映画でホラーを描いているわけではない、と見えるところがあります。もちろん血液たっぷりのスプラッター描写は満載、ホラーであるのは間違いないのですが、米国公開版の『Dawn of the dead』においてラストに流れる音楽はかなり滑稽で、ホラーというよりは風刺という感じの物語に見えるものであります。
「ゾンビ」フォーマットを使用してさまざまな物語を描くのはわりに自然なことでもあり、その表現で広く評価されたのが『Shawn of the dead』であります。
「ゾンビ」、コメディーというと1985年の『Return of the living dead』(邦題:バタリアン)を挙げる声も多くあるかと思いますが、多くのホラー映画に携わってきたダン・オバノン監督が作品を手がけており、描写的にもコメディーらしいバカバカしさ、可笑しさがありながらかなりグロテスクな表現が目立つなど、「ホラー」の側面を前面に打ち出したものとなっていました。
一方、本作の監督はエドガー・ライト。長編デビューとなった本作以降は『Baby Driver』、『Last Night In Soho』などといった作品、わりに「ゾンビ」とはかけ離れた世界でその才能を発揮しており、若干の残酷描写はありながらもホラーとは異なった空気感を描いています。
また本作の特徴は、メインキャストであるサイモン・ペッグ、ニック・フロストという二人の俳優が演じる役柄の視点。その視点は、単に「ゾンビを恐れ、逃げる」というだけの視点とは異なる、新しい人間の視点を見せている向きも感じられます。
ちなみに彼ら二人の相性は抜群で、以後ライト監督の作品『Hot Fuzz』『The world's end』といった作品でもこのタッグは再結集し独特のコメディー感を作り上げています。
『Shaun of the Dead(邦題:ショーン・オブ・ザ・デッド)』

監督:エドガー・ライト
出演:サイモン・ペッグ、ケイト・アシュフィールド、ニック・フロスト、ルーシー・デイビス、ディラン・モーラン、ビル・ナイ、ペネロープ・ウィルトン、ジェシカ・スティーブンソン、ピーター・セラフィノウィッツ、レイフ・スポール、マーティン・フリーマン、マット・ルーカスほか
1979年製作/91分/アメリカ・イタリア合作
4)「ゾンビ」自体の概念から離れた「今のゾンビ」
ロメロが三部作を発表してから、世間ではしきりに「ゾンビ三原則」なるキーワードがささやかれました。
一.ゾンビは生きている人間を捕食する
二.ゾンビに噛まれた人間もゾンビになる
三.ゾンビを殺すには脳を破壊しなければならない
またこれ以外にも、「死人が生き返る」「ゾンビは走れない」などといった暗黙のルールがあるわけですが、たとえば「死人が生き返る」というルールを「人間であることを失った者」と拡大解釈すれば、こうしたルールを外れた「今までにないゾンビ」となる、と半ば強引に考えたのでしょうか(笑)
2002年に発表された『28 Days Later』は、厳密には「死人が生き返る」わけではなくレイジウィルスと呼ばれる謎の病気によって人間の凶暴性が抑止されなくなり、お互いを襲うようになってしまうというもの。噛まれるだけでなくその体液を吸収してしまうことで感染してしまい、その発症はかなり速い。そして一番の特徴は「走れる」ことにあります。
文字で書いてしまえば何でもないことのように見えますが、これはたとえばかつて『ジョーズ』映画が大きな好評を得ながらも「サメは海から出られない」という致命的な欠点(?)で衰退しながらも、あのアサイラムが発表した『シャークネード』シリーズなどの奇想天外な設定で壁を超えた状況と共通したポイントがあるようにも見えます。
一方で本作も、このシリーズ以外では『Trainspotting』『Slumdog Millionaire』といった、いわゆるホラーとは離れた世界観を作り上げてきたダニー・ボイル監督の作品であり、正体不明の恐怖に逃げまどう人に悲哀の感情を織り交ぜるなど、ストレートなホラー表現から逸脱した雰囲気も感じられるところであります。
2007年には続編『28 Weeks Later』、そして2025年にはいよいよシリーズ最新作『28 Years Later』とさらに話題を振りまいているこのシリーズでありますが、果たして世界はどのような状況に陥っているのか。世界の終末をふと考えさせられるシリーズでもあり、期待も大きく深まるところであります。
『28 Days Later(邦題:28日後…)』

監督:ダニー・ボイル
出演:キリアン・マーフィ、ナオミ・ハリス、クリストファー・エクルストン、ミーガン・バーンズ、ブレンダン・グリーソンほか
2002年製作/114分/PG12/イギリス
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