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【映画レビュー】『我来たり、我見たり、我勝利せり』 明るいカラーの裏に見える「世界の暗部」を感じさせるスリラー

  • 執筆者の写真: 黒野でみを
    黒野でみを
  • 4 日前
  • 読了時間: 5分

(C)2024 Ulrich Seidl Filmproduktion GmbH
(C)2024 Ulrich Seidl Filmproduktion GmbH

今回紹介する作品は、オーストリアの監督コンビが手がけたサスペンス映画『我来たり、我見たり、我勝利せり』。


権力者の無敵さを世界の陰よりあからさまに見せつけ、際限のない現状の結末と、無責任な人々がはびこる世界の危機を描きます。


オーストリアの巨匠ウルリヒ・ザイドルの助手を務めた経歴のあるダニエル・へースルと、ユリア・ニーマンの二人による本作は2024年のサンダンス映画祭に正式出品、大きな物議を醸した衝撃の問題作です。


【概要】

(C)2024 Ulrich Seidl Filmproduktion GmbH
(C)2024 Ulrich Seidl Filmproduktion GmbH

善人として生きる表の顔とは裏腹に、裏で「狩り」と称して人間を狙撃するセレブの姿を通して権力構造の恐怖を、ユーモアを交えて描いたサスペンス映画。


『パラダイス』3部作のウルリヒ・ザイドル監督が製作を担当、オーストリアのダニエル・ヘースル&ユリア・ニーマンの監督コンビが作品を手がけました。

キャストには『失恋セラピー』のローレンス・ルップ、『さよなら、アドルフ』のウルシーナ・ラルディ、『フィリップ』のゾーイ・シュトラウプらが名を連ねています。

2024年製作/86分/PG12/オーストリア

原題:Veni Vidi Vici

配給:ハーク


【監督】

ダニエル・ヘースル(兼脚本)、ユリア・ニーマン


【出演】

ローレンス・ルップ、ウルシーナ・ラルディ、オリビア・ゴシュラー、キラ・クラウス、内田珠綺、ドミニク・バルタ、マルクス・シュラインツァー、ハイモン・マリア・バッテンガー、ゾーイ・シュトラウプほか


【あらすじ】



起業家として成功し、莫大な財産を築き、幸福で充実した人生を送るマイナート家。家族を愛する父アマンは趣味の狩りに情熱を注いでいます。


ところが狩りの対象は動物ではなく、アマンは裏で何カ月にもわたって無差別に人間を「狩って」いました。密かに何を狩っても許される「上級国民」の一家。時にはその様子を目撃する者もいながら、誰も彼の行く手を阻むことはできませんでした。


娘のポーラはそんな父の姿を目にしながら、この家族としてのふるまいを身につけていき、ある日ついにポーラは父と一緒に「狩りに行きたい」と言い出すのでした。


【『我来たり、我見たり、我勝利せり』の感想・評価】


1.セレブ感あふれる華やかなカラーの裏に見える、ダークでおぞましい真実

(C)2024 Ulrich Seidl Filmproduktion GmbH
(C)2024 Ulrich Seidl Filmproduktion GmbH

どちらかというと被写体から少し離れ、複数の人物を捕らえた構図が多い映像であり、かつ内容的にはサスペンス的ながら、どこか風刺的な雰囲気も感じられるその展開は、2024年の映画『関心領域 The Zone of Interest』に似た空気感をおぼえる人もいるのでしょうか。


主人公アマンは社会の一員として絶対的な力を持ち、多くの人に支持されています。しかし心の中では逆に周囲の人間にさまざまな価値観を設け、人によっては「狩りの獲物」として命を自身の手中に収める残酷さを持った人物。


多くの人の前では常に笑顔を見せ「善き人」と感じさせながら、密かに用意周到な無差別殺人を繰り返していくそのシュールな空気は、ゾッとするような印象を見る人にジワジワと浴びせかけてきます。

(C)2024 Ulrich Seidl Filmproduktion GmbH
(C)2024 Ulrich Seidl Filmproduktion GmbH

興味深いのは、彼が直接獲物を狙う姿を一切描かないところ。結果的に「彼がそうしたのだろう」と想像させるところはありながらも、決定的なシーンを具体的に見せないところに、作品としての特徴的なポイントが見えてきます。


絶対権力の理不尽な暴挙は、たとえば韓国のサスペンスドラマや映画などでも見られるテーマでありますが、それら作品群の多くは権力者の姿を表裏余すところなく描こうとするのに対し、本作はほとんどがアマンの「善き人」の表情にスポットを当てているところにも要注目。


劇中で一部、彼が鏡で自身の顔を覗き込むシーンがあり、そこで見せる微妙な表情に彼の本当の姿を想起させるものが感じられるのみ。このような演出は彼の読めない腹の中、闇のような真実を深く想起させるものとなっています。

(C)2024 Ulrich Seidl Filmproduktion GmbH
(C)2024 Ulrich Seidl Filmproduktion GmbH

それはある意味力ある人物の象徴のようなものとして描かれ、世の普遍的な印象と相まって見る人を不安と恐怖に包んでいきます。


そして彼の人格は、家族にも受け継がれていく。彼の奇行に気づいたものは彼に手を掛けられ、ある者は命を落とし、一方で別の人は彼自身のダークな闇の世界に引き込まれていく。非常に明るいカラーで描かれた作品であるという印象を見せながら、その裏に見える真のテーマには非常におぞましいほどの暗色が見えてきます。


現代の世界に蔓延する緊張感すらその物語にダブって、異様な不安感をおぼえる作品であるといえるでしょう。


ちなみに本作の原題『Veni Vidi Vici』はどこか意味深な興味深い言葉でありますが、その由来は古代の共和制ローマの皇帝ガイウス・ユリウス・カエサルによるラテン語の有名なフレーズ。紀元前47年頃、ユリウス・カエサルがポントスのファルナケス2世との短期決戦でゼラの戦いに勝利した旨を、ローマ元老院宛ての手紙で報告する際に、このフレーズを使用したといわれています。(※)


言葉の響きとして非常に簡潔で響きやすく、かつ状況を明瞭に表すということで、さまざまな場面に引用され使用されている言葉でありますが、本作もある意味この言葉に従って展開していく物語となっています。

※:引用

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