【映画レビュー】『VENUS/ヴィーナス』 『REC/レック』のジャウマ・バラゲロ監督らしさが堪能できるスペイン発ホラー!
- 黒野でみを
- 4月23日
- 読了時間: 5分
更新日:4月23日

怪奇小説の先駆者として知られるアメリカの小説家H・P・ラブクラフトの短編「魔女屋敷で見た夢」を原案として描かれたホラー『VENUS/ヴィーナス』が公開されます。
この作品はソニー・ピクチャーズ・インターナショナル・プロダクションズとスペインのプロダクションであるPokeepsie Filmsがプライム・ビデオと共同で設立したスペインホラー専門レーベル「アレックス・デ・ラ・イグレシア」における「ザ・フィアー・コレクション」によってプロデュースされた2作目の映画。
第55回シッチェス映画祭のオープニング作品となり、トロント映画祭でも上映されるなど、この春注目のスペイン発ホラー作品であります。
【ジャウマ・バラゲロ監督ならではの陰湿な色彩感を堪能せよ!】
決して居心地がよいとはいえない、薄暗くジメジメしたような陰気さ、閉塞空間における不安感。まさにジャウマ・バラゲロ監督ならではの持ち味であります。
代表作である『REC/レック』シリーズをはじめ『ネイムレス 無名恐怖』『ダークネス』など、このカラーはパラゲロ監督の持つ世界観に大きく起因していることを匂わせています。その意味では、本作もしかり。トップの画像から感じられる色彩感は、本作全体に感じる雰囲気を最も強く表しているものであるともいえるでしょう。
そしてグロ描写もさることながら、得体のしれない恐怖感。『REC レック』でも効果的に使用された集合住宅というシチュエーション、その中に潜むのは単なる闇の組織?宗教?あるいは、いわゆる「悪魔」と呼ばれるものか?そのつかみどころのない不穏な空気、感情をかきむしるように現れるショッキングなシーン作りも、パラゲロ監督作品の特色でもあります。
ビジュアルイメージが強いことからも本作は一見ストレートなホラー作品でありますが、そこにどんなひねりを利かせているか?心して見ることをおススメします…
【概要】

犯罪組織から逃れ他一人の女性が、身を寄せた身内のアパートで遭遇する奇怪な現象と対峙する様子を描きます。
作品を手掛けたのは、スペインのジャウマ・バラゲロ監督。主演にはNetflixドラマ「エリート」で注目を集めたエステル・エクスポシトがキャスティングされています。
監督:ジャウマ・バラゲロ
出演:エステル・エクスポシト、イネス・フェルナンデス、アンヘラ・クレモンテ、マグイ・ミラ、フェルナンド・バルディビエルソほか
2022年製作/スペイン
配給:クロックワークス
劇場公開日:2025年5月9日より全国ロードショー!
【あらすじ】

スペインのマドリードにあるナイトクラブで働くダンサーのルシア。
彼女はとある情報筋からクラブに大量のドラッグが隠してあることを知り、雇い主の犯罪組織からそれを盗んで逃亡します。
そして疎遠になっていた姉ロシオと幼い姪が暮らす、「ヴィーナス」という名のアパートへ身を隠します。ところが夜が明けると、ロシオは姪を残したまま姿を消してしまいます。
ルシアが困惑する中、犯罪組織は彼女を捕まえるべく必死の捜索を繰り広げ、「ヴィーナス」が彼女の居場所であることを突き止めます。その一方で世界では異例の日食が起こり、それと連動するかのようにアパートでは奇妙な現象が起こり始めます。
残された姪を守りつつ、ルシアはその危機から生き延びようと奮闘しますが……。
【『VENUS ヴィーナス』の感想・評価】
1.名作ホラーを独自の解釈で映像化 物語に見える奥行きと独特の世界観

主人公の女性は犯罪組織のドラッグを盗み逃亡、追っ手にビクビクしながら身を隠した姉の家はどこか不穏な空気にあふれ、さらに一夜を明かすと姉が理由も分からないままに姿を消し、アパートの住人はどこか不気味で…
主人公ルシアをとりまく奇怪な要素は多岐にわたり、果たして物語の結末はどこに向かうのか?安定したポイントのない物語に、見る側としては物語の冒頭から最後まで常に混乱が付いて回る格好となっています。
そもそも物語の冒頭、まさにルシアが登場する直前には、ある意味ルシアとは全く関係のない映像、そしてテロップまでもが流れ、果たしてこの物語は「ルシアにまつわる物語」なのか?あるいはもっと広い範囲を主語として描かれたものなのか…

しかし、このカオティックな状況こそが、物語の面白さともいえるかもしれません。
得体のしれない刺客の恐怖を複数の視点から追い、ルシアという女性の身に降りかかる恐怖を中心に、実はその正体が思った以上に大きなものであることが分かってくるわけですが、物語に現れる複雑な要素の絡み合いは、その大きさを表すための布石ともいえるでしょう。
超常現象とは対照的に現実的な存在として登場する、ルシアが逃亡を試みるヤクザな犯罪組織すらも、彼女が体験する奇怪な現象のイメージを示す一つの重要な要素として使われているわけです。
またその一方で、断続的に現れる現象に対し恐怖におののいたままではなく、自身も生きるとともに姪を助けるべく奮闘するルシアという女性のたたずまいも、物語にとっては非常に重要なポイントであるといえるでしょう。

IMDBなどのレビューとしては、物語や作品の世界構成における複雑性に対し賛否両論の評価が出ています。ある意味見る人の主観、好みに依存する作品であるといえるかもしれません。特に物語の結末はどこかあっさりしたものとして仕上げられており、「なぜこの結末としたのか」という点はさまざまに評価が分かれるものと見られます。
しかしそれぞれの要素の繋がり、物語の主題として中心に置いているポイントには、どこかゆるぎない芯をしっかりと立てているような印象もあり、作品の仕上がりとしては高く評価できるものであります。
監督はデビュー作でホラー作家ラムゼイ・キャンベルの長編ホラーを原作とした映画『ネイムレス/無名恐怖』を発表し高い評価を得ていることもあり、物語の咀嚼という点においても優れたセンスを発揮できるクリエイター。その意味では本作も独特の解釈で映像化を実現した作品であるといえるでしょう。
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