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映画『デビルズ・バス』 美しいヨーロッパの森を背景に描かれる「悪魔の風呂」にまつわる真実とは

  • 執筆者の写真: 黒野でみを
    黒野でみを
  • 5月24日
  • 読了時間: 4分
(C)2024 Ulrich Seidl Filmproduktion, Heimatfilm, Coop99 Filmproduktion
(C)2024 Ulrich Seidl Filmproduktion, Heimatfilm, Coop99 Filmproduktion

今回紹介する作品は『グッドナイト・マミー』で世界的に注目を集めたオーストリアの監督コンビ、ベロニカ・フランツ&セベリン・フィアラが手がけた映画『デビルズ・バス』です。


ヨーロッパの美しい森の中における生活、その不快な閉塞感に直面した一人の女性の運命は―――。


作品は2024年・第74回ベルリン国際映画祭にて銀熊賞(芸術貢献賞)、第57回シッチェス・カタロニア国際映画祭にて最優秀作品賞を受賞と、世界的にも非常に高い評価を得たサスペンスであります。


【概要】

(C)2024 Ulrich Seidl Filmproduktion, Heimatfilm, Coop99 Filmproduktion
(C)2024 Ulrich Seidl Filmproduktion, Heimatfilm, Coop99 Filmproduktion

実在の裁判記録に着想を得て、宗教とタブーに支配された歴史の暗部を美しくも残酷な映像表現で描いたサスペンス。


「グッドナイト・マミー」で世界的に注目を集めたオーストリアの監督コンビ、ベロニカ・フランツ&セベリン・フィアラが監督・脚本を手がけました。


2024年製作/121分/PG12/オーストリア・ドイツ合作

原題:Des Teufels Bad

配給:クロックワークス

劇場公開日:2025年5月23日


【監督・脚本】

ベロニカ・フランツ、セベリン・フィアラ


【出演】

アーニャ・プラシュグ、ダービド・シャイド、マリア・ホーフステッターほか


【あらすじ】


(C)2024 Ulrich Seidl Filmproduktion, Heimatfilm, Coop99 Filmproduktion
(C)2024 Ulrich Seidl Filmproduktion, Heimatfilm, Coop99 Filmproduktion

18世紀半ばのオーストリア北部に存在した小さな村に嫁いできた信仰深い女性、アグネス。


夫の育ったこの村は、古くからの伝統が残り閉鎖的で村の住人たちにもなじむことができず、彼女は憂うつな日々を過ごしていました。


姑をはじめとした彼らの無神経な言動や不可解な儀式、何かを訴えるように放置された腐乱死体など、彼女は異様な光景を日常的に目撃し精神的にどんどん追い詰められていき、そんな彼女を村人たちは狂ったと嘆いていきます。


そしてアグネスは、この生き地獄のような世界から自由になるべく、とんでもない行動に出るのでした……。



【『デビルズ・バス』の感想・評価】

「『悪魔の風呂』に侵された女性」を主軸に、「普遍性の中に隠れる不条理」を描く

美しく、のどかさも感じられるヨーロッパの森。そんな場所の中に存在したとあるに嫁いできた一人の女性・アクネスでしたが、未来に約束されるはずだった幸せは日を追うごとに陰りを見せ、彼女を追い詰めていきます。


彼女をむしばんでいくのは、その村に根強く残る保守的な思想。閉鎖的な地域で主人公が追い込まれていく作品としてはM・ナイト・シャマランの『ヴィレッジ』やアリ・アスターの『ミッドサマー』、そして昨年日本で公開された『嗤う蟲』などが思い出されるところでありますが、本作はどちらかというと「ムラ社会」の異常性にスポットを当てるというよりは、その体制にむしばまれていく人物自体を追っていく物語として展開していくものとなっています。


この物語を手がけたベロニカ・フランツ、セベリン・フィアラはインタビューにてもともと本作を構築するにあたり、18世紀の記録にある「悪魔の風呂」と呼ばれる、いわゆる鬱病にまつわる事件を基に1750年のオーストリアを舞台とした「法廷劇」を検討していましたが、その証言記録を閲覧していく中で当事者の生活に迫っていく物語に舵を切っていったことを明かしています。

(C)2024 Ulrich Seidl Filmproduktion, Heimatfilm, Coop99 Filmproduktion
(C)2024 Ulrich Seidl Filmproduktion, Heimatfilm, Coop99 Filmproduktion

女性たちの中で鬱病になった女性を「悪魔の風呂」、つまり悪魔憑きというレッテルを貼り窮追し、症状が悪化しおかしな行動に出たものをさらに追い詰め、ある人は処刑されるというとんでもない状況があったこの時代。


この物語でアグネスを追い詰めたのは、過酷な労働条件や執拗な姑、そして子供ができないことへの追及。さらに彼女は宗教に対する敬虔な信者でありながら、そのタブーに縛られ、状態を悪化させられることになります。


その結果、彼女が選択するとんでもない行動、そして訪れる驚愕の運命。村人たちが最後に彼女を囲い見せるその振る舞いには必ずや驚かされ、そして強烈にゾッとさせられることでしょう。


そのような所感をおぼえさせられる要因としては、アグネスが遭遇する数々の違和感、そして物語で描かれるいわゆる「ムラ社会」的な村の人々の思想感が、おぞましくも現実、現代の社会にもありそうだとも見えるところにあるのではないでしょうか。個人的にショックだったのは、人を救うべく存在しているはずの宗教にどこか矛盾のようなものがあり、人を苦しめているとさえ思えるような言及があった点にあります。


一方、この作品ではショッキングなシーンやグロ描写が非常に効果的な使われ方をしているのも特徴です。どちらかというとそのシーン自体にショックや嫌悪感をおぼえるというよりは、そのシーンが深い意味を持ち、別の衝撃をおぼえさせる。物語の展開が進むにつれ、その変化球は物語の真意を見る人に痛烈に打ち込み、さらなるショックを生み出していきます。



参照記事:

『Bloody Disgusting』2024年7月1日

「『デビルズ・バス』インタビュー 『悪魔の風呂』が法廷ドラマから悲惨な心理時代劇へと進化した経緯」



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