「ゾンビ」というと、その見た目のグロテスクさからどうしても「怖い」というイメージがつきまとってしまうわけですが、ジョージ・A・ロメロが生み出した、いわゆる「現代ゾンビ」登場からすでに40年が過ぎ、今では「怖いだけではないんじゃないか」と言わんばかりに、新たなスタイルを次々と発生させているわけであります。
今回はそんな「ゾンビ怖い→逃げろ!」的なスタイルを逸脱した(笑)、新たな方向性を見出した作品を六作品ほど紹介します。
ホラーは苦手、ゾンビなんて…という方でも大丈夫、ちょっぴり泣けたり、または大笑いして、ときには自分の知らなかった人間の本質を感じたりと、新鮮な感覚すらおぼえることでしょう。
1.奇想天外!?「ゾンビ」コメディー
1.1 『ゾンビ・ガール』
2014年製作/90分/R15+/アメリカ
原題:Burying the Ex
監督:ジョー・ダンテ
出演:アントン・イェルチン、アシュリー・グリーン、アレクサンドラ・ダダリオ、オリバー・クーパーほか
とあるきっかけでゾンビ化した元カノに振り回される青年を描いたホラーコメディ。
原題の「Burying the Ex」とは、すなわち「元カノを埋めろ!」といった感じでしょうか。注目は、ゾンビである元カノに意思があるということ。なので、厳密には「ゾンビではない」という意見も出てくるかもしれません。
ただそれにも関わらず、どちらかというと生前高圧的だった彼女は、生き返ってからさらに青年の意思を無視、高圧性を増すというところに、コメディーながら「ゾンビになることが怖い」と思わせる要素を匂わせています。
全般的にはやはりコメディーとうたっているだけあって、多少のグロ描写はありながらどこか笑える空気感でいっぱい、『グレムリン』のジョー・ダンテならでは、という感じの物語であります。
1.2 『感染家族』
2019年製作/112分/G/韓国
原題:기묘한 가족(英題:The Odd Family: Zombie on Sale)
監督:イ・ミンジェ
出演:キム・ナムギル、チョン・ジェヨン、オム・ジウォン、パク・イナン、チョン・ガラム、イ・スギョンほか
地方暮らしで崖っぷちに立たされた一家が、ある日訪れた一人のゾンビにより時代が好転、金儲けを始めたことが思わぬパニックを引き起こすさまを描いたサバイバル・パニック。
パニック・ムービーとはいえ、前編がコメディー。まさに「ホラーは苦手」という人に是非オススメしたいホラーコメディーであります。
とある田舎の家族の前に訪れた一人の青年ゾンビ。彼の巻き起こす現象は「そんなことあるわけねー!」と一蹴されそうですが、ある意味この「あるわけがない」現象を掘り起こしたのが「ゾンビ」であり、その矛盾を逆手に取って「ありえねー」現象の連続で笑いを生み出します。
個人的には、チョン・ジェヨンの振る舞いがかなり秀逸。韓流ファンの方はご存知かと思いますが、彼はどちらかというと映画、ドラマでかなりシリアス、あまり感情が表に出ない役柄を演じることが多いのですが、この作品では田舎者的性格が丸出し、底抜けに明るいまったく裏表のない人物を演じており、そのギャップ感は彼の役者としての技量の高さを感じさせるところであります。
とにかく「ゾンビで笑いたい」という方にはオススメ。
2.「ゾンビ」で泣ける!?悲しき”よみがえり”ストーリー
2.1 『マギー』
2014年製作/95分/G/アメリカ
原題:Maggie
監督:ヘンリー・ホブソン
出演:アーノルド・シュワルツェネッガー、アビゲイル・ブレスリン、ジョエリー・リチャードソンほか
感染するとゾンビ化するウイルスが蔓延する近未来のアメリカで、病魔に襲われる娘を救うべく、葛藤する親の姿を描いたドラマ。
作品は「ゾンビへと変貌しつつある一人の女性」の目線を中心に、親子、友人、知人との繋がりを、病気を隔離という方法で撲滅しようとする社会の中で描いた物語。「ゾンビ化した人間」を、人々が忌み嫌うものの最たる存在として描いているのが特徴であり、「心から愛する」存在であるという性質と拮抗するさまに人々がもがいていく辛辣な姿を追っています。
一番の注目点はなんといってもアーノルド・シュワルツェネッガーが見せる「親の顔」。この作品ではいわゆる「無敵の非常な表情」を封印し、常に優しい目で愛する娘を見守る父親役に徹している彼ですが、この存在感があってこその物語といえるでしょう。
たとえば世界に蔓延するHIV感染者や、近年のコロナウィルス感染に伴う差別などに言及する節も見られ、非常に感情移入できる物語でありつつ社会問題に対するさまざまな考えを想起させる物語でもあります。
2.2 『アンデッド/愛しき者の不在』
2024年製作/98分/G/ノルウェー・スウェーデン・ギリシャ合作
原題:Handtering av udode
監督:テア・ビスタンダル
出演:レナーテ・レインスベ、ビョルン・スンクェスト、ベンテ・ボシュン、オルガ・ダマーニ、アンデルシュ・ダニエルセン・リー、バハール・パルス、イネサ・ダウクスタ、キアン・ハンセンほか
『ぼくのエリ 200歳の少女』の原作者であるスウェーデンの作家ヨン・アイビデ・リンドクビストの小説を映画化した物語。
本作は、亡き人が原因不明の現象により「蘇り」を果たした時点での顛末を追っており、「愛するものがいないことを嘆く人々が、理由もなく戻ってきたことを無条件に受け入れる姿」を描いています。
この展開は、ゾンビムービーに見られた「死者を恐れ、逃げまとう」という典型的パターンを完全に崩しているわけですが、一方でいわゆる「ロメロ・ゾンビ」以前の「蘇りという現象で描いた『限りある命』というものに対する冒涜」的なイメージととることもでき、物語の最後には哀愁味すら感じられるバッド・エンドを迎えます。
また、物語にはまさに『ぼくのエリ 200歳の少女』を彷彿する人間の悲しき心情に言及した情景も感じられ、血なまぐさいだけのイメージとは異なる独特の雰囲気を持ったゾンビ物語であるといえるでしょう。
3.「ゾンビ」と恋愛!?不思議な感覚を生み出す物語
3.1 『サンズ・オブ・ザ・デッド』
2016年製作/92分/アメリカ
原題:It Stains the Sands Red
監督:コリン・ミニハン
出演:ブリタニー・アレン、フアン・リーディンガー、クリストファー・ヒギンズほか
とある砂漠で立ち往生している間に1人のゾンビに追い回される女性のさまを描いたロードムービー。
物語の冒頭はメインストリームのゾンビームービーにありがちな展開、つまり「いきなりゾンビと遭遇、食べようとするゾンビから必死の逃亡」でありますが、果てしなく続く逃亡劇の中でヒロインとゾンビはいつしか「実ることのない悲しい恋愛劇」を見ているような感覚に陥っていきます。恐怖からいつしかコミカルに、そして最後には哀愁味すら覚えてきます。
物語はほとんどが一人の女性とゾンビの男性のみで展開していくものですが、ゾンビという一つのモチーフをうまく解釈し新たなイマジネーションを想起させるものとした作品であるといえるでしょう。制作陣にはPOVホラー『グレイヴ・エンカウンターズ』の制作スタッフが名を連ねていることもあり、撮り方などの観点で見ても作りには巧みな印象があります。
3.2 『ウォーム・ボディーズ』
2013年製作/97分/アメリカ
原題:Warm Bodies
監督:ジョナサン・レヴィン
出演:ニコラス・ホルト、テリーサ・パーマー、ジョン・マルコヴィッチほか
ゾンビとなりながらも自身の意思を持つ一人の青年が、食べるつもりで襲った人間の女子に一目ぼれしてしまうことで巻き起こる奇想天外な顛末を描いた物語。
この作品がゾンビ映画としてユニークなのは、「意思を持つゾンビ」が登場すること。この物語の主人公、そして彼を取り巻くゾンビたちは、本能的な「食欲」を持ちながらも自身の思いを持ち、ときには恋に落ちてしまいます。
そもそもゾンビには「人間としての意思を失ってしまう」というイメージがありますが、そこに「果たして本当にそうなのか?実は意思を失わない、また失うことに抗うゾンビもいるのではないか?」という新たな異論を唱えているようでもあり、新鮮な気持ちをおぼえる物語でもあります。
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